日南Journal
暮らす
バスケットボールが、人と地域をつないでいく
東京から日南へ。スポーツを通じた、地域との関わりのかたち
スポーツで地域に関わる道を探して
東京都出身の加藤さんは、学生時代から実業団に至るまで バスケットボールに打ち込み、その後はカナダやオーストラリアへ留学するなど、国内外で競技経験を積んできました。
選手としてのキャリアを重ねる中で、次第に「スポーツを通じて、地域や人と関われる仕事ができないだろうか」と考えるようになったといいます。
そうした中で出会ったのが、「地域おこし協力隊」という制度でした。スポーツという自身の専門性を活かしながら、地域に根差し、時間をかけて関係を築いていける仕組みは、加藤さんが思い描いていた関わり方に近いものでした。
いくつかの地域を検討する中で、最終的に候補として残ったのが北海道と宮崎県でした。北と南、まったく異なる環境の中で、「スポーツを軸に地域と向き合えるかどうか」を基準に考えた結果、宮崎県日南市を選びました。
初めて日南を訪れ、空港から市内へ向かう海沿いの道を走ったとき、「ここなら腰を据えて取り組めるかもしれない」と直感的に感じたそうです。

コロナ禍の移住と、信頼を築くまでの時間
加藤さんが日南に移住したのは、ちょうどコロナ禍が始まった頃でした。外から来た人に対して地域が敏感になっていた時期でもあり、最初は戸惑うことも多かったといいます。
「スポーツの力で地域を変えるというのは、すぐに目に見える成果が出るものではありません」。
だからこそ、焦らず、地元の人の話をよく聞き、順序を大切にしながら活動を続けてきました。継続する姿勢そのものが少しずつ信頼につながり、人が集まるようになっていったと振り返ります。

バスケットに絞ったからこそ、見えてきたもの
地域おこし協力隊としての当初のテーマは、スポーツ全般の支援でした。しかし、コロナ禍で思うように活動が進まない中、自身の専門であるバスケットボールにフォーカスすることを決断します。
「最初から専門性を前面に出すより、まずは地域に寄り添うところから始めたかった」。
段階的に活動を重ねることで、3年目頃から少しずつ手応えを感じ始めました。スクールの土台づくりを進め、任期終了間際にはクラブチームを設立。試合という“見える成果”を通じて、地域に貢献できる形を模索してきました。その取り組みは現在も続いており、加藤さんは日南を拠点に活動しています。

子どもたちの未来が、少しずつ変わっていく
現在、加藤さんはU15世代を中心に、バスケットボールスクールとクラブチームの指導を行っています。宮崎の子どもたちについて、「素直で、一度打ち解けると全力で取り組んでくれる」と話します。
全国大会への出場など結果も出始め、進学先が変わった子どももいます。「バスケットを通して、人生そのものが変わっていく瞬間に立ち会うことがある」。本気で取り組む環境が、人と人を引き寄せ、新たな可能性を生み出しています。

課題と向き合いながら、地域に根を張る
一方で、活動は決して順風満帆ではありません。日南市は体育館の数が限られており、練習場所の確保は常に課題です。時には屋外で、車のライトを頼りに練習することもあります。
また、送迎が難しいという家庭の事情から、参加を諦めてしまう子どもも少なくありません。加藤さんは、そうした現実に向き合い、自ら送迎用の車を購入して子どもたちの送り迎えを担っています。
「家庭環境を理由に、バスケットボールをやりたい気持ちを諦める子どもを、少しでも減らしたい」。
この取り組みは、スポーツ指導の現場では決して一般的なものではありませんが、子ども一人ひとりの状況に向き合おうとする加藤さんなりの答えでした。
こうした姿勢は、次第に地域の中でも理解され、信頼へとつながっていきます。子どもだけでなく、その家族や地域の人たちからも「一緒に支えたい」という声が生まれ、活動の輪は少しずつ広がっていきました。


「一人で変える」のではなく、「一緒につくる」
加藤さんが大切にしているのは、すべてを自分一人で変えようとしないことです。地域に根付いてきた指導者や文化を尊重しながら、新しい選択肢を加えていくことを意識しています。
「この活動が、この地域に残っていけばいい」。
教え子が将来、指導者として地域に戻ってくることも、一つの理想です。人が育ち、役割が循環していく。その土台づくりに、今も挑戦を続けています。
日南という場所が持つ可能性
野球やサッカーのキャンプ地として知られる日南市は、スポーツに対して前向きな土壌を持つ街です。施設や環境面の課題はあるものの、加藤さんは「ポテンシャルは高い」と感じています。
活動を続け、発信し、人が集まることで、街は少しずつ変わっていく。その先に、移住という選択肢が自然と生まれていくのかもしれません。
加藤さんの挑戦は、スポーツを通じて地域と未来をつなぐ、静かで力強い一歩となっています。


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