日南Journal

暮らす

手をかけ、育てて、分かち合う。

日南で見つけた「自然の中での自給」と、つながりのレストラン

#インタビュー

手をかけ、育てて、分かち合う。

帰国後、暮らす場所を探す4ヶ月

東京や仙台で飲食の仕事に携わってきた鈴衛(すずえ)さん。2011年、仙台で東日本大震災を経験した際、沿岸地域から外国人観光客の姿が消えていく現実を目の当たりにしました。「地域にもう一度、活気を取り戻したい」。そのためには、まず自分自身が海外と向き合い、言葉や文化を学ぶ必要があると考え、家族とともに1年の予定でオーストラリアへ渡ります。ところが、現地の暮らしやすさに魅了され、気づけば約10年をその地で過ごすことになりました。

やがてコロナ禍を機に帰国。日本での新しい暮らしを考えるなかで、鈴衛さんご夫妻は西日本の海沿いを4か月かけて巡る旅に出ました。サーフィンができて、自然と共に暮らせる土地を探していたふたりが「ここだ」と感じたのが、宮崎県日南市でした。

「宮崎がいいね」から、日南が“ここだ”になった

旅の途中で「宮崎がいいね」という話は出ていたものの、当初から日南市が目的地だったわけではありません。いくつもの土地を巡る中で、日南で強く印象に残ったのは町全体の明るさと、人のやさしさでした。
さらに鈴衛さん夫妻には以前から、自給自足的な暮らしへの憧れがありました。食べ物を育てられる環境があり、海があり、困ったときに支え合える人がいること。海と人と食——それらが日南で自然に揃っていったことが、決め手の一つになりました。

今ではサーフィンに出かけたり、庭で野菜を育てたりと、思い描いていた“自然とともにある暮らし”を、日々の中で実感しています。

開業するつもりはなかった。それでも店が生まれた理由

興味深いのは、鈴衛さんが「店を開くために移住した」わけではないという点です。

日南に移住した当初、開業の意志はまったくありませんでした。そんなある日、近所の方から「ご職業は?」と尋ねられ、「ずっと料理をしてきました」と答えると、「じゃあ、ここで料理をやるのかい?」という言葉が返ってきたといいます。
「地域の後押しが、まず一つありました」。鈴衛さんは当時をそう振り返ります。

もう一つのきっかけとなったのは、創業支援制度の存在です。「創業支援補助金」という制度があり、市内で創業する場合、条件を満たせば助成を受けることができます。

「自分にできることは何かと考えたとき、地元の食材を活かして、人と人をつなぎ、外から人を呼び込む“魅力のある場”をつくれるかもしれない——そう思って、開業を決めました。」

こうして生まれたのが、イタリアンレストラン「Tsuyano Fresca」です。

食材を育て、料理をつくる。日南の時間を皿にのせる

Tsuyano Frescaの料理は、日南での暮らしと地続きです。季節にもよりますが野菜は自分たちで育て、卵はニワトリによる自家製。将来的には野菜や米も“できる限り自分たちで”を目指しています。現時点では2〜3割ほどが自家製で賄えている感覚だそうです。
一方で、やってみて分かる難しさもあります。ブルーベリーも野菜も“採れる時期”は短く、同じ食材を安定して使い続けるのは簡単ではありません。それでも、その季節の一瞬をすくい取って料理に落とし込むこと自体が、この土地の時間を表現する営みになっています。

 

店は、いつの間にか「集まる場所」になっていった

Tsuyano Frescaは、次第に飲食店の枠を越えていきました。「ここでヨガのワークショップをしたい」「イベントができたらいい」——そんな声が自然と集まり、婚活パーティーの会場として使われたこともあります。
「自分たちでイベントを企画するというより、場所を整えていくと、そういう流れになるんです」。人が想像できる余白のある空間があることで、地域の中で“やってみたい”が生まれやすくなる。店づくりそのものが、地域課題の解決につながっていると感じているそうです。

ギャップが少ないのは、つながりが日常にあるから

移住後のギャップについて尋ねると、鈴衛さんは「ネガティブなギャップはあまりないですね」と話します。むしろ想像していた以上に周りがよくしてくれる。卵を持っていけば野菜を分けてもらえる——そんな物々交換も、特別な出来事ではなく、日常の中に自然とあります。地域のつながりは、“あったら嬉しい”を超えて、暮らしそのものを支える土台になっているとも感じているそうです。「つながりがないと、この暮らしは成立しないのかもしれない」。そう言い切る言葉には、都市部とは異なる生活のリアリティが宿っています。

 

この町に「立ち止まる理由」をつくりたい

今後の夢は、宿泊機能を併設すること。レストランがあるからこそ、オーベルジュ(※フランス発祥の「郷土料理を主役とした、宿泊施設付きのレストラン」)のような形も考えています。みかんも魚もおいしい日南という土地に、ふらりと立ち寄り、感じ、少し立ち止まってもらえる場所をつくりたい。まだ構想段階ではあるものの、少しずつ同じ想いを持つ仲間が集まりつつある感覚があるといいます。

日南で出会った自然と人とのつながりの中で、食べ物を育て、料理をつくり、人を迎える。鈴衛さんは、そんな穏やかで満ち足りた暮らしを、日々この町で丁寧に紡いでいます。

copyright Nichinan City. All Rights Reserved.

お問い合わせフォーム